国際分散投資の株式資産配分は、時価総額比率でいいのか?
国際分散投資の株式資産配分は、時価総額比率でいいのか?
グローバルな株式資産配分を考える時、多くの場合、株式市場の時価総額ベースで国や地域の配分比率を決めています。たとえば米国は、時価総額ベースで世界株式の41.3%の配分(MSCI All Country World Index 2010年9月)となっています。主要なグローバル株価指数のFTSE All World IndexやMSCI All Country World Indexは、いずれも株式市場の時価総額ベースで配分比率を決めています。そして、年金や投資信託などの機関投資家は皆、これらの指数をベンチマーク(パフォーマンス評価基準)に利用しています。
一方で、株式資産配分比率を決める考え方としてGDPの比率で国や地域の配分比率を決めるという考え方があります。この二つのベースでの配分比率を、主要地域で比較して見ましょう。
世界の主要地域別GDP比率と時価総額比率比較 (2010年9月30日現在)
実質GDP比率%(A) | 時価総額比率%(B) | (B)-(A) | |
---|---|---|---|
北米 (うち米国) |
29.0 (26.4) |
45.8 (41.3) |
16.8 (14.9) |
欧州先進国 | 27.7 | 26.1 | -1.6 |
日本 | 8.7 | 8.6 | -0.1 |
アジア・パシフィック (シンガポール・香港・豪州・ニュージーランド) |
2.5 | 5.4 | 2.9 |
新興国 (エマージングマーケット) |
31.9 | 13.7 | -18.2 |
※実質GDP比率は米国農務省発表、
時価総額比率はMSCI All Country World Indexの構成比率
この表を見ると、米国の時価総額比率がGDP比率に比べ、大幅に大きくなっていることがわかります。一方で欧州先進国・日本が、時価総額比率よりGDP比率が高くなっていて、新興国は、時価総額比率がGDP比率に比べ、大幅に少なくなっています。
新興国で時価総額比率がGDP比率に比べ大幅に少なくなっている背景には、経済に貢献する企業に国有企業や未上場企業が多く含まれること、経済や産業がまだ未成熟で完全に自由化されていないこと、外国投資家に対し株式投資が制限されていることなどが考えられます。
そもそもこのGDP比率によって株式の資産配分を測ってみるべきとされたのが、時価総額ベースのMSCI All Country World Indexに占める日本の比率が1988年に40.8%になり、大きすぎるのではないかという指摘があったためです。当時の日本のGDP比率は19.3%で、時価総額比率が2倍以上のオーバー・ウェートになっていました。その後バブル崩壊とともに、このオーバー・ウェートは急速に解消し、1998年には日本は世界でもトップのアンダー・ウェート国になっていたのです。この日本のケースから、時価総額比率がGDP比率を大幅に上回ると、割高に買われすぎているともいえる状況が出現することがわかります。
それでは、このGDP比率の株価指数と時価総額比率の株価指数との過去の長期パフォーマンスを比較してみましょう。
GDP比率と時価総額比率の株価指数の相対的パフォーマンス比較
1988/3―2009/11 | |
---|---|
MSCI ACWI GDP指数の上昇率 /MSCI ACWI指数の上昇率 |
1.7倍 |
MSCI エマージング GDP指数の上昇率 /MSCI エマージング指数の上昇率 |
2.6倍 |
*ACWIはAll Country World Indexの頭文字 出所:MSCI Barra
20年以上の期間で、GDP比率指数の上昇率が、世界全地域、新興国ともそれぞれ1.7倍、2.6倍と、時価総額比率の指数の上昇率を大きく上回っています。またリターン/リスクの比較(MSCI Barraによる。数字が大きいほど取ったリスクに対してリターンが大きく、投資効率がいい)でも、MSCI ACWI GDP:MSCI ACWIでは0.45:0.3、MSCI エマージング GDP:MSCI エマージングでは0.52:0.39と、際立ってGDP比率のほうが高くなっています。
GDP比率で株式の資産配分をするべきとの根拠に、時価総額比率では、上場企業のみを対象とするが、一国の経済に貢献する企業は上場・非上場、公営企業か私企業かを問わずすべての企業であり、このような企業も含めた経済価値を表すGDP比率がより経済の実態に近いということがあります。
また、このGDP比率/時価総額比率は、相対的な市場の成熟度を示す指標とも見ることができます。この指標(GDP比率/時価総額比率)が低い国や地域は、市場経済がすでに成熟化し、今後低成長に向かっていくだろうと見て、この指標が高い国や地域は、市場経済の高成長が期待できるという見方です。
ここで、冒頭の表をあらためて見てみますと、米国の時価総額比率がGDP比率を大きく上回る1.6倍ですが、新興国地域の時価総額比率はGDP比率の0.4倍と大幅に下回っています。GDP比率でグローバルな株式配分をするということは、高い経済成長が期待できる新興国へのウェートが、現在広く使われている時価総額比率ベースでの13%程度から30%以上に高まり、先進国、特に米国のウェートが大幅に減ることになります。
これまでの上昇率の相対比較や、そもそもこのGDP比率でのインデックス導入のきっかけとなった日本のバブル崩壊後の推移を見ると、GDP比率での世界株式配分を考慮してみることは一考の価値があるといってよいでしょう。