外国株の長期投資に、為替リスクはほとんどない
外国株投資には為替が付き物で、ここまで超円高が続くと、為替が恐いし、もっ
と円高になるだろうから、それを待って外国株投資をやろうと考えるのも、無理
はありません。しかし、外国株投資に、ほとんど為替リスクはないとしたら、ど
うでしょう。
□ 為替レートは、2国間のインフレ率の差で決まる。
為替レートは、2国通貨の換算レートですが、その為替レートは、2国のインフレ
率の差によって決まるとされています。インフレ率の高い国の通貨は、低い国よ
り通貨安になります。今年10月の米国物価上昇率は前年比3.5%、日本は-0.2%で
すから、円高もうなずけるというものです。
□ では、通貨安を伴なうインフレは、株価をどう動かすか?
そこで、まず、通貨安をもたらすインフレは株価にどう影響するかを見てみまし
ょう。
1.インフレになると、実物資産である不動産や株式に投資資金が回り、不動産
価格や株価が上がる。
2.インフレになると、製品の売価が上がり、賃金の上昇は遅れ気味になり、収
益性が向上し、株価は上がる。
3.通貨安になると、輸出企業や国外の売上が多いグローバル企業は業績がよく
なり、株価は上がる。
このように通貨安を株価の上昇が補い、さらに、通貨安を大きく上回る株価の上
昇を期待できるようになるのです。
□ 27年で3分の1になる円高でも、NYダウは、円建てで3倍以上に
下の表は、日経平均とニューヨーク・ダウに円建てで投資した場合を比較したも
のです。どの期間を取っても、その差は歴然としたものがあります。どの期間で
も、これまで円高になっているのですが、円建てニューヨーク・ダウは、日本株
より大幅にアウトパフォームしているのです。27年経ってもマイナスというのは、
悲しいですね。始めた当時の為替は、なんと233円。現在はちょうど、その3分の1
です。それで
も、円建てNYダウは3倍以上になっているのです。こういう現実は、しっかり直
視しなければいけません。
日経平均 円建てNYダウ 開始時の為替
84/1~11/12 0.9倍 3.2倍 233.00円
93/1~11/12 0.5倍 2.3倍 124.30円
00/1~11/12 0.55倍 0.8倍 106.90円
□ 為替リスクは、どの程度外国株投資で吸収されるのか?
実際にどの程度、為替リスクが、外国株投資で吸収されてしまうかを、ニューヨ
ーク・ダウに円で投資した場合で見てみましょう。
リスク度を%で表示
NYダウ 為替 円建てNYダウ 為替による増加(吸収されたリスク)
93/1~11/12 15.1% 10.9% 17.8% 2.7% (8.1%)
00/1~11/12 15.5% 9.6% 18.3% 2.8% (6.8%)
この表の見方を説明しましょう。「NYダウ」はドルで投資した場合の株価本来
のリスク、「為替」は為替リスクです。そして、「円建てNYダウ」は、普通に
考えると、93/1~11/12の部分では、「NYダウ」と「為替」の15.1%と10.9%を
足したもの、すなわち26%だろうと思うのですが、実際には、17.8%となってい
ます。そして、ここで増えている為替リスクは、10.9%ではなく、(17.8-15.1)
の2.7%のみです。為替リスクの3/4(8.1%/10.9%)が消えてしまっています。
00/1~11/12を見ても、同じような結果が出ています。
また、93年からの円建てNYダウのリスク17.8%の内訳を見てみますと、株式リ
スクが15.1%、為替リスクは2.7%で、為替リスクは全体の15%しかなく、ほと
んどが(85%)が株式リスクとなっています。2000年1月以降の分も、まったく
同じ割合です。すなわち、長期でNYダウに投資していた場合、為替リスクは、
全体のリスクの中のほんのわずかという結果になっているのです。
過去の米国での調査でも、10年以上たつと、外国株投資の為替リスクはゼロにな
るという結果が出ています。これは、先ほどお話したとおり、通貨安をもたらす
インフレにより株価が上昇し、為替リスクを埋め合わせてしまうことを表してい
るものです。
□ デフレと円高で苦しむ日本株より外国株投資
したがって、相対的に、株価が上がりにくいデフレの時に、円高に苦しむ国内企
業に投資するより、インフレにより投資資金が株に向きやすいため株価が上がる
国の株式や、製品の値上げがしやすいため収益が改善し、通貨安の恩恵を受け輸
出採算がいい、米国などの輸出企業や国外売上の多いグローバル企業に投資する
ほうが、効率がいいということがいえるわけです。
短期では、為替レートは為替市場の投機的売買や需給関係で動きますが、10年以
上の長期では、このようなメカニズムで株価に影響してくるわけです。
□ 外国債投資は、外国株より為替リスクがずっと高い
債券のほうが株式に投資するより、為替リスクが少ないと普通は思うのですが、
これが、ちょっと違うのです。これは、どうしてかというと、株式は、上のよう
な要因から、いわば生き物のように、通貨安を株価の上昇で吸収してしまいます
が、債券の場合は、インフレが通貨安を引き起こしますから、インフレにより債
券価格は下がり、さらに通貨安で為替損も被り、為替損を吸収することなく、債
券のリスク+為替リスクを単純に足したものになってしまうからです。上の93/1
~11/12のケースで、15.1%+10.9%=26%の計算方法が、債券ですが、株式の場合、
実際にはそれが17.8%で済んでいるということです。
また、株式の場合、為替のリスクは株式のリスクの2分の1程度といわれている
(上の表では、15.1%と10.9%にあたる)のですが、債券の場合、為替のリスク
は債券のリスクの2倍程度といわれています。
□ 為替リスクを恐れて外国株投資をためらうべきではない。
為替リスクをあまりにも恐れて、外国株投資をためらうのは、効率的な資産運用
の有力な選択肢を狭めてしまうことになります。また、円高になればなるほど、
円換算で投資金額は安くなりますが、通貨安でもインフレによる株価の上昇を考
えれば、為替の水準を第一義に、外国株投資のタイミングを測るのは非合理的で
あることもわかります。